アルフレッドは通り過ぎていく人々の胸元を眺めながら歩いていた。
(多くても三、四個……五個以上なんてかなり歳上で貫禄のある人たちばかりだ。同じ歳くらいの人は大体二つで目一杯なのに)
アルフレッドが観察していたのは人々の持つ『資格』の数。冒険者が胸元に付けるバッジの数だ。
嘗て『職業制度』は五職業しか制定されておらず、一度一つの職業に就くと他の職に就くのは難しかった。というのも、職業に就くには聖堂で洗礼を受け、職業に誓約を立てなければならない。そうすることで過去の聖人や君子から不思議な『力』を受け取ることが出来るのだ。そうして受け取った力は『資質』と呼ばれ、就いた職業で有利な力となる。例えば戦士ならば筋力が育ちやすくなったり、魔導士なら魔力が上がり、魔法の威力が上がったり魔力の節約などが出来るようになるといったものだ。
洗礼を受けることが出来るのは生涯一度のみだった。だから、一度ある職業の洗礼を受けてしまえば他の職業の洗礼を受け直すことは出来ないのだ。嘗ての職業制度ではそれぞれの職業の役割は独立していたため、『資質』と違う職業に就くことはデメリットでしかないと考えられていた。
だが、クレセントテイル戦役での大敗を経験した国家は、職業制度の基盤から作り直す必要があった。こうして考えられたのが『資格制度』。ある一つの職業に限定することなく、『冒険者』という一つの括りの中で自由に様々な職業に就く。それぞれの修得具合によってその職業の『資格』を与えられる。資格を有する人間は胸元にバッジを身につけることによって資格を他人に示すことが出来た。
それから多くの職業が導入された。既存の五職業と数種の新たな初級職業をベースに、中級職、上級職、複合職など多くの職業が追加され、現在ではその職業の数は飽和状態となっている。デメリットであると考えられていた『資質』の問題は、無数にある職業の中で自分を際立たせるための『個性』となっていた。戦術のバリエーションが多様になり、戦闘中で『資質』と『資格』が噛み合えば、爆発的な力となった。これは化学反応が起こすそれと酷似していた。懐に潜り込まれても物理攻撃で華麗に対処する魔導師や、自らが盾となりつつ傷を癒す堅牢な騎士は、『資質』と『資格』を上手く利用した近代戦術の一例である。
いつしかバッジを多く持つことは冒険者社会において権力の象徴となった。冒険者達はバッジを身につけるために多くの職業を皆伝しようとし、日々鍛錬に励み、功績を立てようと意欲的に依頼を受理するようになっていた。
(あの女の子、俺と同じくらいの歳に見えるのにバッジが四つも……何者なんだ……)
バッジを持たない、つまり冒険者カースト最下層のアルフレッドにとって、彼女は文字通り高嶺の花であった。彼女のことが頭から離れぬまま道を進むうちに、気づけばワークショップの前にたどり着いていた。
「あんまり来ること無かったけど、改めて見ると、やっぱりすごいな……」
ゴシック様式の外観に見入って、その門扉をくぐる。中は開けていて、各部署ごとに受付が分かれているようだった。広間の中心にある大きな噴水はオリオルフェストのシンボルの一つであり、待ち合わせ場所にもよく使われている。噴水には細かい装飾がところ狭しと散りばめられ、設計者の造詣の深さが窺えた。
「就職課はどこだ……」
広い構内で地図も無しに目的の場所を見つけるのは難しいと判断し、早々とインフォメーションの女性に尋ねる。
「すみません、就職課はどこですか」
「ここを真っすぐ行ったところですよ。成人になられたばかりですか?」
「そうです」
「頑張ってくださいね」
「ありがとうございます!」
彼女に勇気づけられ、アルフレッドの緊張は少しほぐれたかのように見えた。女性に案内された通りに受付に向かうと、貼札に就職課と書いてあった。
受付の中では数人の職員が働いていた。ここでは成人の就職や転職の手続きを行ってもらえる。
「今日はどの様なご用件で?」
「職業の申請書を取りに……」
「職業申請書ですね。少々お待ちを……この用紙に必要事項を記入して、こちらに提出してください」
アルフレッドは申請書を受け取った。『志願職業』項目の空欄には何を埋めるかもう決めてある。アルフレッドはその欄に『剣士』と力強く書き記した。他の記入欄もその勢いで埋めていき、再び受け付けに向かう。受付の女性に用紙を差し出すと、記入事項の確認を始めた。
「訂正や不備はありませんね?無ければ押捺させて頂きます」
「大丈夫です」
判子の押された申請用紙をアルフレッドは受け取った。
「それではこの用紙をお持ちになって、剣士ギルドまでいらっしゃってください。そちらの方で就職試験を受けてもらいますので。剣士ギルドはワークショップを出て――」
受け付けの女性が丁寧に次に向かう場所への道程を示してくれる。おまけに地図まで書いて渡してくれた。アルフレッドは女性に会釈してワークショップを出た。
「それにしても……」
アルフレッドは溜息をつく。
「試験があるなんて知らなかった……」
そうは言ってみたものの、普通に考えれば何もせずにその職業に就職してお金がもらえるようになる、というのは随分虫のいい話だ。冒険者以外の一般職の面接のように、試験を通してその職業に就くに値する能力の有無を判断するのは至極尤もなことである。またそれだけでなく、試験はとても重要な役割を担っていた。それは最後の意思決定の場であるということだ。
職業に就いた所で、転職はいつでも出来る。冒険者はたくさんバッジを得るためにいくつもの職業に手を出すのが普通だ。
しかし問題は最初に就いた職業である。最初に就いた職によってその人間の資質が決まるーー即ちその人間の基盤となる能力の優劣が決まるのだ。
剣士になれば、剣の扱いは戦士にも勝る。剣を装備する時の攻撃力は格段に他を抜きん出ているだろう。そして、それは転職した場合も同様だ。この時アルフレッドは、そのようなメリットやデメリットを深くは考えてはいなかった。もちろん全く考慮していなかったわけではないが。
剣士の資質を授かれば、騎士になった時のメリットは多くある。敵の攻撃を受け、迅速に斬り伏せる。それは小さな要塞そのものだ。
彼が騎士になるために剣士の資質を受け取るのは、避けて通ることはできない、それもまた一人の人間の立派な考え方であった。
アルフレッドはワークショップを後にし、ギルド立地区へと足を運ぶ。
『オリオルフェスト』は四つの区画からなる――それは行政区、商業区、住宅区、ギルド立地区の四つだ。行政区は国の中核部に存在し、その周りを他の三つの区画が囲んでいるような地図になっている。ゴシック様式のワークショップからギルド立地区までは一直線に道が繋がっているため、人の流れに身を任せていれば迷うことなくそこへたどり着くことが出来た。
しかし、問題は別にあった――というのも、剣士ギルドの細かい位置が分からないのだ。ギルドは最初に就ける職、所謂初級職の数だけある。職業制度が施工された時に、平地を開拓して訓練場などの設備を完備したギルドが十数個建設された。一つ一つのギルド内に訓練場に食堂、宿舎、講堂を立てているため、その敷地はかなり大きい。それが何個もあれば特定のギルドを訪問するのも時間のかかることである。
それでも幸いなことに、ワークショップの女性からもらった地図が分かりやすかったのと、大体似たような系統――近接戦闘の戦士、剣士、格闘家や魔法を扱う魔導師、僧侶の様に大まかな組み分けがされている――の職業ギルドは近隣に敷設していたこととで、アルフレッドは戦士のギルドを頼りに剣士ギルドの位置を特定することが出来た。
「うぅ……緊張する……」
「どうした、青年」
「ひぇっ!?」
声を掛けられたアルフレッドが振り返ると、そこにはアルフレッドの頭一つ分、或いはそれ以上背の高い大男が立っていた。
驚きのあまりにアルフレッドは小さな悲鳴を漏らしていた。
「剣士ギルドに何用かな。さては新たな志願者か?」
「はい、そうです……ここで試験を行うと聞いたので」
「そうかそうか。まあ中に入って待っていたまえ。すぐ案内を寄越す」
そう言い大男は施設内に立ち去った。
アルフレッドはギルドの中に入り、案内役が来るのを待つ。さっきのような大男が来たらやりにくいなとか、試験何するんだろうとか考えていた。
「君が志願者?」
不意に声を掛けられた。恐らく、案内役の者であろう。
「は、はい!アルフレッド・ガルシアと申します!」
「うっす、俺はこのギルドで主に新人教育とかを担当してる、グレイブ・オークスっす」
男はツンツンした栗色の髪を、わしゃわしゃ掻きながら挨拶した。
見た目は普通の若者だが、真面目でない言葉遣いからあまりいい印象を受けなかった。
少し呆気にとられたアルフレッドは置いておいて、グレイブは話を続けた。
「んーと、申請書はあるよね。そんじゃ、これから試験を受けてもらうんで」
アルフレッドは手に持った職業申請書をグレイブに手渡しながら質問する。
「あの……試験するって何をするんですか? 何も聞かされてないもので……」
「んーまあ、ついて来なよ。すぐ分かるさ」
「はぁ……」
アルフレッドは結局目的も分からないまま、試験会場であろう場所に引率される。
道中、グレイブがアルフレッドに尋ねた。
「時間短縮のために、とりあえず移動しながら面接すっか。まぁ適当に答えてくれ。あ、別に落とそうとかそういうの全くないから固くなんなよ。一種の通過儀礼みたいなもんだからさぁ」
かったるいけど仕方ないからやるか、とでも言いたげな様子だ。
こんなものでいいのだろうかとアルフレッドは溜息をついた。
「それじゃ、一つ目。職業の経歴は?」
「今日、成人したので、この剣士の志願が初めてです」
「へぇ、本当に新人って訳だな。わっかいな~。資質とか、そこら辺のこと分かってるよな?」
資質――職業に初めて就く時に決まる能力の優劣のことだ。アルフレッドにもその程度の知識――一応、必要最低限の知識である――は持ち合わせていたので、グレイブの問いに頷いた。
「それじゃ、二つ目。数ある職業の中で剣士選んだ理由を教えてくれ」
剣士を選んだ理由――それは、騎士になりたいから。理由としては弱いものなのかもしれない。
しかし、良い印象を持たせるような嘘をすぐに思いつくことはできなかった。だから、思っていることをそのまま口にした。
「俺、騎士を目指してるんです。騎士になるためには剣士を極めなければならない。だから、剣士の力を培ってゆくゆくは騎士に……」
「へえ、騎士かい。中々いい目標だね。じゃあ、騎士を目指す理由は?」
グレイブがすぐに切り返す。
アルフレッドは戸惑った。騎士になりたいという信念ははっきりしている。しかし、何故なのかはうっすらとしか覚えていない――あの商店街での出来事は、ぼんやりとしか記憶に無かった。
それでも記憶を絞り出して、その記憶の断片を話した。
「……目標にしている人が、いるんです」
「へえ、どんな?」
「はっきりとは覚えてません。確か彼は甲冑を身にしていました。何かから襲われた自分を助けてくれて……そう、黒い甲冑です。そして自分はこの人みたいに人を助けられるようになりたいって思って……」
それを聞いたグレイブは、ある単語に反応した。
「待て、黒い甲冑って言ったか?」
「はい。黒い甲冑なんて珍しいですからなんとなく覚えてます。まあ、確かな記憶かは分からないですけど。お知り合いの方ですか?」
グレイブは此方と目を合わせずに、吐き捨てるように言った。
「そんな奴は知らない」
その態度からして、グレイブは明らかに騎士のことを知っていた。しかし、グレイブのあまりの拒絶にアルフレッドは問い返すことは出来なかった。
「さーて、着いたぞ。ここが試験会場だぜ」
「……え?」
「見て分かるだろ? これが、試験だ」
アルフレッドの目の前に広がるのは、予想していたものとは全く異なる風景だった。
「……てっきり筆記試験か何かだと思ってました」
目の前には大勢の群衆、飛び交う歓声、そしてそれらが取り巻くのは一つのリング。
「アルフレッド・ガルシア。君にはここで試合を行ってもらおう」
試合を行う各人には木刀が配られ、それを使い戦う。
戦うといっても、一撃を加えれば攻撃側が勝利するという、単純な試合だ。
アルフレッドは、壇上で行われる試合を観戦していた。そこで戦う剣士二人は、双方とも熟練者のようで白熱した戦いをしている。
「……俺も今からこんなことするのか」
一方が剣を振り下ろす、それをもう一方が剣で防ぎ、そのまま鍔迫り合う。競り勝った方が剣を突き出すが、それを紙一重で躱す。
両者は一歩も譲らない。実力は互角ということだろう。
アルフレッドは静かにそれを観戦していたが、内心ではかなり焦っていた。目の前で繰り広げられている戦いを自ら行わなければならない。
剣を握ったことのないアルフレッドにとってそれは思っている以上に過酷なはずだ。
そんな思索を巡らすなか、何処かへ行っていたグレイブが帰ってくる。
「楽しいか?」
「まあ、見る分には」
「参加申し込みしてきたぞ。次の試合だ」
アルフレッドが目を見張る。それもそのはず、本当にいきなりなんて思っていなかったからだ。
「相手は『無敗の猛者』ライド・モーグルだ」
妙な二つ名が耳に掛かる。
「無敗の猛者?」
「ああ、文字通り、負け無しってことさ」
アルフレッドがそれを理解すると、顔から血の気が引いていった。先程まで、あそこで戦っていた人よりも強いかもしれない。ただでさえ自信が無いというのに。それだけで戦意は消失していったのだ。
「そんなの……無理ですよ」
アルフレッドは声を絞り出す。
「無理です。一回も剣を握ったこともないのに、そんなベテランと……最初から勝ち目は無いじゃないですか! こんなことに意味あるんですか!? こんなの……茶番でしかない!!」
それを、グレイブは静かに聞く。そして、聞き終わると――鼻で笑った。
「……ヘッ、なんだよ、ただの甘ちゃんじゃねーか」
グレイブは別に気にしてないかのような振る舞いで話す。
「逃げたければお好きにどーぞ。こっちは無駄な試験する手間が省けるし、そっちも怖い思いしなくて済むし、ウィンウィンだぜ」
「……」
アルフレッドは黙り込んだままだった。
「強大な敵から人を守るのが騎士だというのに、今のお前にはそれに真っ向から挑もうって覚悟すらないじゃん。お前の中の騎士になりたいって気持ちは、その程度だったってことなんだよ」
グレイブは手を振って去っていった。
アルフレッドはそれを追うこともなく、立ち竦む。
悔しかった。
自分をバカにされたのが悔しくて、騎士になりたいという気持ちを踏みにじられて、怒りで手が震えた。
唇を噛み締めて、口の中に鉄の味がじんわりと溢れる。
「その程度なのか、俺は」
思えば昔から、何の覚悟も無しに生きてきた。
自らが率先して進むことなく、人の後についていき、安全な道しか通って来なかった。
何かを得るために努力することも、何かを守るために忍耐することも、そんなこととは無縁に生きてきた。
自分の考えを持たず、周りに同調するだけ。そんなことで、自分の目標に手が届くはずがない。
先ほどまでの怒りが徐々に冷め、それとともに自分に嫌気がさした。
「なんだ、俺って何も持ってないじゃん」
気づけば、隣に入り口で出会った大男が立っていた。
「今は無くても、これから作っていけばいいのではあるまいか? 少年よ――いや、もう大人になったのだったな?」
その言葉に、アルフレッドは心を打たれた。
頭で思うより先に、身体が動いた。
先ほど去っていったグレイブの元へ駆け出し、追いつき、その言葉を紡ぐ。
「……俺を『無敗の猛者』ライド・モーグルと戦わせてください!!」
アルフレッドの目には、やる気に満ちた光が宿っていた。
「……控室に行け。試合はすぐ始まる」
控室の隅で、アルフレッドは震えていた。
「馬鹿野郎……恐いんじゃねえよ、これは武者震いだ」
何も無い空間に向かって独り言を吐き捨てる。
グレイブに渡された木刀を握りしめる。
「しかしまあ、本当にこれだけとは……」
先程観戦した通り、防具は付けず軽装で戦う。木刀で身体に直接打撃を与えれば勝利、単純なルールだが、ヒートアップしやすい分怪我のリスクも高い。
「いや……逃げ腰になったらダメだ。俺は騎士になるんだ」
そう自分を言い聞かせ立ち上がる。そして、壇上へと足を踏み出した。
アルフレッドが壇上に上がると、歓声が湧いた。観客が待ちに待っていたのだろう――勿論、目当てはライド・モーグルだろうが。
その歓声のあまりの大きさに身体が怯む。こういう状況に場慣れしていないからか、視線が沢山集まるだけに緊張してしまう。
そして、前方から声。
「遅いぜ、誰か知らないがあんまり手間取らせないでくれよ。俺も暇じゃないんだし……」
アルフレッドが捉えたのは、一人の若者だった。その姿は唯の青年。背はまあまあ高め、肉はあまり着いていなく、見た目は一般人と殆ど変わりなかった。
しかし、彼の身体から滲み出る威圧感、それだけが特出していた。そして、それは眼前の男がライド・モーグルであることを確信させた。
「その面構え……新人だな? よくもまあ俺に挑もうと思ったな」
ライドが気だるそうに呟く。
「ライド・モーグル……」
「おいおい呼び捨てかよ。先輩には敬語を使えよ」
アルフレッドは木刀の先をライドに向け宣言する。
「俺は負けません。夢を叶えるために」
「若者が夢を持つってのはいいことだ。でもなぁ……現実をもっと見ろよ……っ!!」
ライドがアルフレッドの向けた剣先を払いのけ、戦闘は始まった。
「遅い遅い!!」
ライドの猛烈な斬りつけがアルフレッドを襲う。それをアルフレッド辛うじて防ぐ。いや、恐らく防げるようにライドが加減しているのだろう。
「おおおおおお!!」
反撃に出るアルフレッドは両手で木刀を振り回す。それは全くの出鱈目で、剣撃は空を切るばかりだ。
「甘い」
ライドは必死のアルフレッドの攻撃を片手で軽くいなす。
「俺は……! 騎士になるんだ……!!」
アルフレッドが足を踏み込み、木刀を全力で振り抜く。それは、完全にライドの腹を捉えた。
……かのように見えた。
「素人が図に乗るな」
ライドがぽつりと呟く。
ライドの躯を捉えたと思われた剣の軌道はあらぬ方向へと向かっていった。――まるで、ライドを避けるかのように。
「やっぱ弱いよ、お前」
ライドがアルフレッドの木刀を振り払い、アルフレッドの肩に一撃を叩き込もうとする。
アルフレッドは負けを確信していた。
その時、突如場内に響き渡る放送が鳴り響いた。
「「緊急事態です!! 」」
場内が一瞬で沈黙に包まれる。
「「剣士ギルド構内に複数体の魔物の侵入を確認!
迎撃に当たれる者は速やかに魔物の迎撃を、その他は速やかに避難をしてください!!」」
「うわあああ?!」「急げ!!」「避難者はこっちに!」
放送が鳴り止むと同時に、構内は悲鳴に包まれ、秩序を失った。
「おい、新人」
ライドが木刀を降ろし、話しかける。
「アルフレッド・ガルシアです」
名前を聞いたライドの眉が、少し動いた。
「……んなこと今はどうでもいい。それより、敵の迎撃にあたるぞ」
「武器も無しに?」
「いや、ちゃんとあるだろ?」
二人が手に持つのは木刀。アルフレッドは溜息をついた。
「俺がいるからには大丈夫だよ。さあ、被害が出る前にとっとと終わらすぞ。
この俺が負けるなんてあり得ない。なんたって、俺は『無敗の猛者』だぜ?」
ライドが駆け出すのに、アルフレッドはついていく。
「ああ、そういえば……」
ライドが走りながらアルフレッドの方を向く。
「俺に負けなかったのは、お前が初めてだ」
ライドのなりの褒め言葉だったのだろう、すぐにアルフレッドから視線を逸らした。
アルフレッドの顔からは自然に笑みがこぼれていた。