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Wandering Wondering

Social/Journal

剣士志願者の聖譚曲

The Knight's Oratorio

遠い未来

「人間と魔物って、なんで共存できないんだろう」
 君は不意に、そう切り出した。
 人間と魔物、正と負、善と悪、陰と陽、それらは、互いに交わることのないものの代表格。
「神様って、信じる?」
「信じてる。神様は人を助けてくれるんでしょ」
「そうね、魔王から私達を守ってくれるのは神様だけ……」
 魔王、それは悪の権化。それを唯一打ち負かせる存在は、神と呼ばれていた。
 そして神と魔王もまた、互いに交わることのない反発しあう存在の一つだった。神は人を創造し、魔王もまた魔物を創った。神によって生をもたらされた人間は神を崇め、魔王によってそうされた魔物達は魔王の意を汲み取り動くのだ。
「魔王はね、魔物に人を襲わせる。なぜだか分かる?」
「理由なんてないよ。魔王が悪者だから、人間を襲うんでしょ」
「ふふっ、まだ子供ね。――は」
 君はそう言って笑い飛ばし、話を続けた。
「どんな存在が魔王って呼ばれるんだと思う?」
「悪の親玉だよ!」
「簡単に言うとね。魔物の中で一番強くて、魔物達を指揮して、全ての生物の頂点に立とうとしているのが魔王なの」
「よく分かんない」
「魔王にとって、神様の存在は目の上のたんこぶのようなもの。だから魔王は、神をその地位から引きずり下ろす方法を考えた」
「どうやって?」
「神様は、人間が神様を信じることでパワーをもらっているの。だから、魔王は神様の信仰を無くそうとした」
 魔王は魔物に指示した。人間に恐怖と諦念を抱かせるように。すがることが、如何に無駄なことかと思い知らせるように。
「そんなことしても、神様が僕達を守ってくれる!」
「だと思うでしょ、でもね、神様は現れなかった。
 どんなお金持ちも、お偉いさんも、世界を救った英雄も、一度も神様の姿を見たことなかったの」
 だから人々は、神を否定したのよ――
「人間はね、神様にすがることをやめた。人間は、自分たちで考えることができる。
 だから自らの『知恵』で、人間は魔王に対抗したの」
 僕は何も言い返せなかった。そんな僕を、君は笑って慰める。
「心配しないで。昔の話よ。ずっとずっと、昔の、ね」
 遠い昔、それは神様が忘れ去られていた頃の話。

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