フレイ王に良きと思われていない
科学研究府。
国家に信頼されない彼らが何故一大権力を手に入れることができたのか。
我々はアクイラ公国へ行き調査した。
ウィークリー・レイオアム
まだ記憶に新しい五年前、アルファルドの厄災はアインシュレイン国民、世界中の人々に大きな傷痕を残した。
有害物質の蔓延、土壌の崩壊、天候の乱れ……そんな自然のパワーバランスの崩壊を救ったのがアクイラの科学研究府だ。
科学研究府は先代のアクイラ王によって設立され、スフィアに関する研究を行っていた。彼らは専門とする知識と技術を用いて、見事アルファルドの厄災を鎮静化したのだ。
アインシュレインの国力が著しく低下した中、科学研究府は革新的な技術を産み出した。『魔法の一般化』だ。古代から秘密裏に存在していた魔法を、彼らは誰もが使える技術と成し得たのだ。今まで魔法はアカデミア・フォン・レイオアムの様な魔導学園で勉強する他に習得は出来なかった。それを科学研究府は小さな水晶『スフィア』を用いることで老若男女問わず使用出来るようにしたのだ。
ここ五年間でノース・エコノミック・メジャー三国の魔法浸透率は急上昇し、今や日常生活にまで使われるようになった。科学研究府の発明は、我々の在り方を根本的に変えようとしているのだ。
さて、何故ここまで人々の生活を豊かにしてきた科学研究府がフレイ王に蔑ろにされているのだろう。フレイ王は純粋な正教徒である。アクイラの宗教は自由なので、各個人、企業によって宗教に対する考え方が異なることが多い。フレイ王の信仰する正教を科学研究府が蔑んだか、正教に対立する邪教徒が科学研究府内に存在するか。フレイ王は明確に科学研究府に不信感を抱いている。その裏付けに、今年度の予算案から科学研究費用が大幅に削減された。このことでフレイ王は国民から非難を受けているが、彼はそのことについて何も言及していない。
しかし、科学研究府は解散したりしないだろう。彼らには独自の貿易ルートがあり、隣国のアインシュレインやシグナスと頻繁に貿易を行っている。そして、シグナス国の女王であり、フレイ王の双子の姉、フレイヤ女王がアクイラ科学研究府の研究費を捻出しているという噂もある。もしこの噂が正しければ、フレイ王とフレイヤ女王の関係は悪化し、二国の関係も緊張状態に移行することは間違いない。ノース・エコノミック・メジャーはビヴロストを代表する経済大国だ。我らがアインシュレイン国の王女、ミラージュ王女が二国の関係を取り持つことが重要な鍵となるだろう。
スフィアとは、故人の思想が物体化した物。では、科学研究府が最初にスフィアを産み出した時、何を行った?
人が死ぬことで初めて産まれるスフィアが、何故この世界に浸透している?
「スロ・インプルペイサー」
彼女は真実を知っている。
「ヘイスト・クリアート」
彼女は唯一の生き残りだ。
ジョニー・ウォーカーは笑みを浮かべる。
ジャック・ダニエルはレバーに手をかける。
ホワイト・ホースは武器を手にする。
科学研究府は、腐っているのだ。
人工魔導生命、別名――ホムンクルス
大量のプロトタイプがそこで産まれ、死んでいった。そして今もなお、人体実験が行われている。
科学研究府が今まで世間を豊かにしてきたことは、倫理に反した外道の所業なのだ。
今頃上では何が起こっているのだろう。アクイラとシグナスの同盟締結式典?
ツインズ・ジュビリー?
違う。彼らは――科学研究府は、シグナスは、とんでもないことを起こそうとしているのだ。
ブラッディ・セレモニー
その撃鉄が、たった今起こされた。