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Wandering Wondering

Social/Journal

FRAGMENT

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世界を救った一人の英雄

首都
レイオアム、グラッドストン広場に一つのモニュメントが建てられた。
世界を救った一人の英雄

針状結晶のように無造作に伸びる塊の上に一人の少女が掲げられている。
このモニュメントのモチーフとなったのは、『アルファルドの厄災』だ。
未曾有の危機に見舞われたアインシュレインやビヴロストを根本的に止めた少女がいた。
二次災害などはアクイラの科学研究府の尽力でなんとか食い止められたが、彼らでも『母なるスフィア』の暴走を止めることが出来なかった。
それにたった一人で立ち向かったのが彼女『キラ・プロミネンス』だった。
彼女の旧友ザルガ・サグジェスペルは厄災後、サグジェスペル財団を立ち上げた。
厄災によって体や心に傷を負った人々を支援する団体だ。
財団の代表ザルガは厄災の悲惨さとそれを止めた勇気ある女性を忘れないために、このモニュメントを作ったのだった。

「このような災害が二度と起こらぬよう、我々は教訓を生かして生きていかなければなりません」
テレビに映るザルガは、被災した人々を全面的にサポートすることを述べていた。

「ただいま、フラム」
「……」
「ちゃんとご飯食べなきゃダメじゃないか。もう三日も何も口にしてない」
ザルガは机に向かった。机の上には走り書きのようなメモが多数と、多くの専門書が積み重ねてあった。
「僕は僕に出来る最善を尽くすから、フラムはしっかりと自分を取り戻すんだよ――」
玄関のチャイムが鳴った。
「――どちら様……!!」
ザルガは目を見開いた。
「ライじゃないか!! 今まで何処に行っていたんだよ!!」
ライと呼ばれた男はザルガを睨むと――彼を殴り倒した。
「!! 何するんだ!!」
「お前は、何も分かっていない……!!」
ライはザルガの胸ぐらを掴み、引き寄せる。
「今すぐモニュメントを取り壊せ。財団なんて馬鹿げた団体なんて解散しろ」
「何故だよ!! 僕は間違ったことをしているのか!? アルファルドの厄災で多くの人間が傷を負った。だが、一番報われないのはキラだ!! 僕がこうして彼女の存在を世間に明かしていかなければ、彼女の存在は忘れ去られてしまう!! 世界の危機を救った英雄を、誰も知らない世界なんて僕は嫌だ!!」
「彼女は英雄なんかじゃない!!!」
ライは叫んだ。そして、弱々しい声を絞り出してこう言った。
「彼女は――ただの女の子だ」
「ライ……」
「こうやって、祭り上げる必要なんて何にもない。俺達が、いや、俺さえキラのことを覚えていれば、それで充分なんだ」
「何を考えているんだ……?」
「キラを奪ったスフィアという存在を消し去る。俺一人で」
「バカな真似はよせ!! 現実を見るんだ! 君はキラを失ったことで、進むべき道すら見失っている!!」
「止めてくれるな……キラは俺の中で永遠に生き続ける」
ライは去った。彼は数年間、ザルガの前から姿を隠すことになる。
「……何も諦めてなんかないよ。キラはまだ生きてるんだから」
ザルガは机に座り直した。夜が更けていく。彼の机のランタンは一晩中消えることはなかった。