「アクイラの国立科学研究府が新薬を開発しました。これは直に世界中の医療機関に流通を開始し、治すのは困難と言われた難病をはじめ、様々な病気に――」
「すごいね。アクイラって」
彼女はテレビを見ながらそう呟いた。
「何が?」
私はとぼけた。そんなこと、答えは決まっている。
「何がって、歴史に残る偉業よ。人が抗うことのできなかった病原菌や死そのものに、人間の脳が勝った瞬間だよ」
「――そうだね」
「彼らはこの薬の開発で、何千、何万の人々を救ったも同然。英雄とはこういう人たちのことを言うんじゃないのかな」
テレビには一人の男性が映しだされている。
アクイラ国立科学研究府代表 ジョニー・ウォーカー
「このような偉業を成し遂げられて、どんなお気持ちですか?」
「これからはどのような研究をなされるのですか?」
「フレイ国王に申し上げたい言葉はありますか?」
世界中の誰もが今、彼に注目している。
彼は一つ一つ丁寧に質問に答えていった。
「フレイ王に代替わりしてから、研究府の実績も少なかったからね。これでフレイ王も認めるんじゃないかな、研究府のこと。先王の時の研究府もすさまじいほど業績立ててたでしょ?」
私は知っている。
彼の本性を。
「ねぇ、聞いてる?」
彼らの真実を。
「ねぇってば」
――水面下で蠢いているものの正体を。
「ねぇ、スロ!!」
「っ!! ごめん、聞いてなかった」
「どうかしたの?」
「何でもない。ただの考え事だから。心配しないで、ホリィ」
……。
…………。
それから『アルファルドの厄災』によって、ビヴロストは未曾有の危機に陥った。
それを復興させたのは、またしても科学研究府だった。
そして、世界に『魔法』が蔓延し始めた。
それを流通させたのも、科学研究府だった。
既に人々は、科学研究府の開発したもの無しでは生きられなくなっていた。
――それが非倫理的なものであるとも知らずに。
あと数週間でN.E.M.首脳会談だ。
依然我が国のミラージュ王女は行方不明だ。
科学研究府を腫れ物扱いしているアクイラ国王の支持率が下がってきている。
少しずつ、世界の歯車が狂ってきている。
『廃棄物』に出来ることなどあるのか?
いや、
『イレギュラー』だからこそ出来ることがあるのか?
この問いに答えが分かる薬があればいいのに。
奴らはそんな薬も作れない、最低の、ゲスで、ゴミの集まりだ。
結局、私にはもう抗うしか選択肢は残されていないのだ。
なぜなら私の周りの人々は皆――――いなくなってしまった。
:とある研究組織とそれに携わっていた女性